1ChatGPTとGeminiは「任せられる工程」で比べる
同じ「資料を作って」という依頼でも、AIが返すものは文章、編集できるファイル、アプリ内での編集結果などに分かれます。さらに、作ったものを読み直し、必要なら修正して、指定した場所へ保存できるかにも違いがあります。今日はこの一連の工程をChatGPTで体験します。
Geminiにも複数段階の調査やファイル生成機能があります。Deep Research、Canvas、Google Slides連携などがあるため、「Geminiはマルチターン推論ができない」「ファイルを作れない」と一律には言えません。比較するときは、どの画面・機能で、どの形式を、どこまで編集・検品できたかを揃えます。
| 比較する観点 | Gemini | ChatGPT/ChatGPT Work |
|---|---|---|
| 調べながら進める | Deep Researchで調査を進め、レポート化できる。通常のチャットと専用機能は区別する。 | 利用できる検索・ファイル生成ツールを組み合わせる。継続する制作タスクにはWorkも選べる。 |
| Excelなどのファイル | 公式案内には.xlsxなどのファイル生成がある。既存ブックの数式・書式をどこまで保つかは結果で確認する。 | 対応する環境で.xlsxや.pptxを作成・編集する。複雑なマクロ、外部リンク、特殊書式の保持は個別に確認する。 |
| スライドのデザイン | CanvasやSlidesで作成・更新でき、Slidesには既存デッキのスタイルを参照する機能もある。自由度は使用機能による。 | テンプレートや詳細な配置条件を渡し、生成・修正を依頼できる。テンプレートの完全再現は保証されない。 |
| 手元のフォルダで作業 | アップロード・Drive連携と、PC内のフォルダを直接読む操作は別。今回紹介するWeb機能だけでローカル直接編集を前提にしない。 | Workのローカル実行なら、許可したPC内のファイルを読み書きできる。Workのクラウド実行とは異なる。 |
| 完成後の検品 | どちらも「確認しました」という文だけで判断しない。実ファイル、照合した数値、画像で確認したページ、未検証事項を確認する。 | |
ファイル操作がうまくいかない・デザインの自由度が低いと感じたら:「数式が値に変わった」「ページ単位の修正が難しい」「全ページの検品まで続かない」のように、困った工程を具体化しましょう。同じ入力・同じ完成条件で比べると、ツールを替えるべき場所が分かります。これは実演での評価観点であり、製品全体の優劣を断定するものではありません。
公式情報:Gemini Deep Research / Geminiのファイル生成 / Gemini in Google Slides / ChatGPT Work入門
2マルチターン推論を「動き」で見る
今回「マルチターン推論」と呼ぶのは、途中の検索結果や実行結果を受けて、AIが次の作業を選び直し、確認・修正を繰り返す振る舞いです。単に人とAIが何往復も話すこととは区別します。内部の思考過程を読むのではなく、ツールの実行や成果物の変化を観察します。
たとえば「3ページ目の表がはみ出す」と分かれば、AIは文章を短くする・表の配置を変える・作り直して確認する、という次の手を選べます。完成品を検証する工程まで依頼に含めることがポイントです。
- 目的:誰が何を判断する資料か
- 材料:使うファイル、検索範囲、参照するテンプレート
- 成果物:.xlsx/.pptx、枚数、編集可能な部分
- 完成条件:数値一致、出典、読みやすさ
- 保存先と確認:どこに保存し、何を検証して報告するか
3実演:Web検索 → PowerPoint → 自己チェック
最初は通常のチャット画面から始めます。ファイル作成とWeb検索を利用できる環境を使ってください。モデル名ではなく、今の画面で必要なツールを使えるかを確認します。題材は公開情報だけで完結する「企業の生成AI活用」です。
- 新しいチャットを開き、下のプロンプトを1回送ります。
- 検索の実行、ファイル作成、読戻し・修正の進み方を観察します。
- 途中で確認を求められたら内容を読み、必要な回答・許可を与えます。
- 完成した.pptxをダウンロードし、PowerPointで全5枚を開きます。
| 見るところ | 確認できたと言える証拠 |
|---|---|
| 本当に検索した? | 検索・参照の履歴があり、リンク先の公開日・対象時点・主張が対応する。 |
| 文章で止まっていない? | .pptxが実際に生成され、PowerPointで開ける。 |
| 自分で確認した? | 読戻し、数値照合、ページ画像の確認など、実施した方法が示される。 |
| 修正まで続いた? | 不備を見つけた場合にファイルが更新され、更新後の確認結果がある。 |
「自律的に進む」は、毎回無条件で成功するという意味ではありません。ツールや利用上限によっては、構成案で止まったり、Workへの切替を案内されたりします。その場合は何が未実施かを確認し、継続する制作作業はWorkへ渡します。通常チャットだけで全工程が必ず動くとは説明しません。
検品が抜けたときの追加指示
人も一つは裏取りする:スライドの数値を一つ選び、出典を開いて単位・対象・時点まで照合してください。AIの自己チェックは作業を減らしますが、最終確認の代わりにはなりません。
4通常チャットのファイルはどこにある?
通常チャットでファイル生成やコード実行を行う場合、処理はクラウド側の隔離された作業環境で行われます。「自分のPCとは別の仮想的な作業机」と考えると分かりやすいでしょう。チャット全体が一つの仮想マシンで動く、という厳密な構成説明ではありません。
Finderのフォルダ名やPC内のパスをチャットに書いても、それだけで手元のファイルを読めるようにはなりません。必要なファイルを添付するか、利用できる連携経由で渡します。生成したファイルはダウンロードして、Finderやエクスプローラーから保存先へ移します。
| 実行場所 | 材料の渡し方 | 成果物の受け取り方 |
|---|---|---|
| 通常チャット | ファイルを添付・利用可能な連携から参照 | 生成ファイルをダウンロードしてPCに保存 |
| Work:クラウド | アップロード・許可済みの接続先など | クラウド側の成果物を取得。PC内フォルダへの直接保存とは別 |
| Work:ローカル | 許可した作業フォルダ内のファイルを直接参照 | 指定したローカルフォルダにファイルを書き出せる |
公式情報:Workのローカル/クラウドの実行境界。通常チャットのクラウド上の生成ファイルと、PC上の実ファイルを区別しましょう。
5Workで手元のファイルを読み、保存する
ChatGPT Workは、確認できる成果物まで仕事を進めるための機能です。対応するデスクトップアプリで「Work locally/ローカルで作業」を選ぶと、許可したPC内のファイルを扱えます。デスクトップアプリを開いただけで、クラウドのタスクがローカルになるわけではありません。
- 対応するChatGPTデスクトップアプリでWorkを選択します。
- 入力欄付近の実行場所で「Work locally」を選びます。表記は言語・バージョンにより異なります。
- 教材用フォルダをローカルプロジェクト/作業フォルダとして選択し、必要なアクセスを許可します。
- まず読取だけを依頼して、対象ファイルと作業フォルダを確認します。
- 出力先を指定して作成を依頼し、完成後はFinder(Mac)またはエクスプローラー(Windows)で実ファイルを開きます。
Workが見つからない場合:利用プラン、組織の設定、対応OS、アプリの提供状況を確認してください。JMARの受講者全員にWorkが提供されているかは事前確認が必要です。使えない場合も、第7章以降は通常チャットに添付 → ダウンロードで進められます。
ローカル実行でも、モデルの処理のために必要な内容がクラウドへ送られる場合があります。「PC内のファイルを扱える」ことと「完全にオフラインで処理する」ことは別です。今日は配布した架空データで操作を確かめます。
公式情報:Workの始め方 / ローカルファイル・アプリの権限とデータ処理
6演習キットを準備する
基本操作用:小規模演習キット
まずファイル操作と検品を体験するための13行の架空アンケートです。テンプレート作成プロンプトを含みます。調査分析に取り組む方は、第12章の購買パネル・IoTキットを使ってください。2つの演習は独立しています。
基本操作用キット(ZIP)研修用・全件架空。社外への配布・転載はご遠慮ください。
ZIPを展開するとJMAR-lesson07フォルダができます。中にはプロンプトも入っています。Workではこのフォルダを作業対象にします。通常チャットでは、まず下の3ファイルを添付してください。
- survey-a.csv:回答の前半6件
- survey-b.csv:後半7件。未回答と完全一致の重複を含む
- research-brief.md:集計ルールと報告書の依頼
題材は「社内AI活用ミニ研修のアンケート」です。JMARの実際の回答ではありません。小さなデータなので、AIの集計を人の目でも確かめられます。
Workの場合:最初は読取確認だけ
成功の目印:自分が展開したフォルダと3ファイルが表示されること。別のフォルダが示されたら、そこで作業を進めず、対象の選択を直します。
7Excelを集計し、数値を検証する
2つのCSVを一つにし、部門別に集計します。文章の要約を返してもらうだけでなく、Excelで編集できるファイルを作ります。生成前に、依頼メモの「重複」「欠損」「高評価の定義」を読んでください。
完成後は、この表と照合する
元は13件。全列が同じ回答ID「012」を1件除外し、採用する回答は12件です。満足度の空欄1件を除くと、有効回答は11件。高評価率の分母は12ではなく11です。
| 部門 | 回答件数 | 有効回答 | 平均満足度 | 高評価件数 | 高評価率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 調査部 | 4 | 4 | 4.00 | 3 | 75.0% |
| 企画部 | 4 | 3 | 3.00 | 1 | 33.3% |
| 管理部 | 4 | 4 | 4.00 | 3 | 75.0% |
| 全体 | 12 | 11 | 3.73 | 7 | 63.6% |
全体平均は41 ÷ 11 = 3.727…です。部門平均の単純平均ではありません。表示は小数2桁に丸めても、内部の計算は丸める前の値を使います。
- 元データ・集計・検証の3シートがある。
- 回答ID「001」の先頭ゼロが残り、欠損は0になっていない。
- 集計セルを選ぶと数式バーに数式があり、参照範囲が正しい。
- 重複除外1件・欠損1件が検証シートに記録されている。
- 列見出し・グラフ・単位が読め、エラー値がない。
数値を変えて「本当に動く」ことを確認する
出力ファイルの確認用コピーを作り、元データシートのID「001」を5から1に変えます。再計算後に全体平均が3.36、高評価率が54.5%になれば、数式がデータを参照していることを確かめられます。確認用コピーは本番の報告書生成には使わず、元の演習データに戻って進めます。
CSVをExcelで直接開くと文字化けする場合は、「データ」からUTF-8として取り込みます。回答ID列は文字列にしてください。AIへ渡すときはCSVをそのまま添付できます。
8テンプレートをプロジェクトに置く
毎回「色は濃紺、フッターはこの表記」と書くより、見本の実ファイルと守るルールを一緒に置くと、体裁を伝えやすくなります。Excelならシート名・列構成・表示形式、PowerPointなら配色・文字サイズ・ページ構成をテンプレートで渡します。
テンプレートがない場合は、その場で作る
下の指示で空の.xlsxと.pptxを作成し、人が開いて見本として使えるか確認します。既存の社内テンプレートを使う場合は、この作成工程を省略できます。実データや顧客情報が入っていないものを使ってください。
通常チャットのプロジェクトと、ローカルの作業フォルダ
| 使う環境 | 具体的な準備 |
|---|---|
| 通常チャットのプロジェクト | プロジェクトを新規作成。確認済みの2つのテンプレート、依頼メモ、CSVをファイルとして追加し、下の共通指示を指示欄に設定。そのプロジェクト内で会話を開始する。ファイル追加の上限・対応形式は環境による。 |
| Workのローカルプロジェクト | 選択したJMAR-lesson07内にtemplates/を作り、2つのテンプレートを置く。output/を保存先として指定する。プロジェクトの指示設定が利用できる場合は下の指示を設定し、ない場合はタスクの依頼に添える。 |
JMAR-lesson07/
survey-a.csv
survey-b.csv
research-brief.md
templates/
survey-template.xlsx
report-template.pptx
output/
survey-summary-v2.xlsx
survey-report-v1.pptx
checklist.md
上は準備・作成後の配置例です。展開直後のZIPにtemplates/や成果物はありません。
「見た目を参考にする」と「テンプレートを複製して編集する」は違います。形式を保ちたい場合は、複製すること、固定する箇所、置換する箇所を指定しましょう。スライドマスターや複雑なグラフが完全に保たれるとは限らないので、出力後の目視を残します。
ファイルを一度チャットへ添付しても、PC内の原本と自動同期されるとは限りません。テンプレートを更新したら、プロジェクトで参照している版も確認してください。共通指示は作業ルールであり、ファイルへのアクセス権を与える設定ではありません。
9ExcelからPowerPointへ、検品して保存する
準備したテンプレートを使って一連の仕事を任せます。2つのCSV → Excel集計 → 5枚のPowerPoint → 数値と見た目の確認 → 保存までを一つの依頼にします。報告書の数値は、元データから検証したExcelの値を使います。
Finder/エクスプローラーで成果物を確認する
- Workが示した保存先を開き、output/に3ファイルがあるか確認します。通常チャットの場合は3ファイルをダウンロードして保存します。
- survey-summary-v2.xlsxをExcelで開き、第7章の期待値と照合します。
- survey-report-v1.pptxをPowerPointで開き、5枚を順番に確認します。本文をクリックして編集できるかも確かめます。
- ExcelとPowerPointで「有効11件・平均3.73・高評価63.6%」が一致することを確認します。
- checklist.mdを開き、AIが実施した検証と、できなかった検証を見分けます。
ここまでできたら今回の完成:同じテンプレートで作ったExcelとPowerPointが手元に保存され、両方を開ける。数値が一致し、元ファイルが残っている。単にチャットに「保存しました」と書かれただけでは完成にしません。
PowerPointに結果をまとめる際は、「企画部は有効回答3件の練習データである」など、解釈の限界も入れます。少人数の結果だけで部門全体の評価や因果を断定しないようにしましょう。
10つまずいたときの直し方
| 症状 | 確かめること・次の指示 |
|---|---|
| 構成案だけで終わる | 「利用可能なら実際の.pptxを作成して」と依頼。ファイル生成機能がない場合はWorkなど対応環境へ切り替える。 |
| ローカルのファイルが見えない | ローカル実行、選択フォルダ、許可を確認。パス文字列だけを渡してもアクセス権は増えない。 |
| ダウンロードリンクが開かない | 生成したセッションでファイルの再生成を依頼。取得できたら早めに手元へ保存する。 |
| 数式が空欄・エラー・古い値 | 数式と参照範囲を確認し、Excel側で再計算。AIが数式の再計算を実施できたかを区別する。 |
| 満足度の平均や比率が違う | 欠損を0にしていないか、重複除外と分母が正しいかを確認。期待値だけを上書きさせず、集計処理を直させる。 |
| テンプレートが反映されない | 参照したファイル名・版を確認。「原本を複製し、固定箇所を保つ」と指定。見本と結果の画像を並べて差を伝える。 |
| PowerPointの文字がはみ出る | ページ番号とスクリーンショットを添え、「文字を小さくしすぎず本文を短く、全ページ再確認」と依頼。 |
| 画像の検品ができない | テキストの読戻しまで実施させ、見た目は人がOfficeで確認。画像を見ていないのに見た目も合格とは扱わない。 |
| 既存のマクロ・リンクが壊れる | 今回の基本演習は.xlsx/.pptx。複雑な.xlsm・外部リンク・埋込オブジェクトは複製で個別検証し、必要ならOffice上の操作やVBAを選ぶ。 |
不具合を伝えるときは、ファイル名、シート/ページ、期待した状態、実際の状態の4点を揃えます。「うまくいかない」より、直すべき場所が明確になります。
11業務へ持ち帰るときの考え方
今回の方法は、月次報告、調査結果の速報、提案書の定型ページづくりに応用できます。入力ファイル、集計ルール、テンプレート、出力先、完成条件を固定すると、次回はデータの差し替えから始められます。
ファイル生成・Officeの操作・VBAを使い分ける
新しい集計表や資料を作るなら、AIにファイルを直接生成させる方法が入口になります。既存のOffice画面で作業したい場合は、利用可能なアプリ連携や画面操作を確認します。毎回同じ手順をOffice内で繰り返す場合は、AIにVBAを書かせる方法も候補です。今回の中心は、生成・確認・保存の仕事全体を任せることです。
持ち帰る3つの習慣
- 原本を保つ:出力は別名・別フォルダ。テンプレートも版を区別する。
- 検証を依頼に含める:数値の照合と見た目の確認を分けて書く。
- 完成品を開く:保存先、内容、編集可能性を人が確かめてから業務で使う。
次の第8回は「Microsoft 365 / Copilot の活用」です。普段のM365環境でどこまでできるかを、利用できる機能・ライセンスの確認と合わせて扱います。
12発展:購買パネル × IoTのマーケティングリサーチ
ここからは、生活者の購買傾向を調べ、根拠を示すレポートを作る演習です。題材は2026年7〜8月の8つの架空企業・24店舗・400人のパネル。企業ごとの購買構成、買い回り、店舗内の滞在行動を分析します。請求書処理や広告運用ではなく、調査・分析を仕事として任せます。
発展演習:購買パネル・IoT分析キット
7種類・合計3,838行のCSV、データ辞書、分析依頼、プロンプト、採点基準を収録。全件合成データで、実在の生活者・企業・JMARの調査結果ではありません。
購買パネル・IoT分析キット(ZIP)期間:2026-07-01〜08-31 / 基準日:2026-08-31 / 日本円・日本時間 / CSVはUTF-8 BOM付き。IoTにはUTC表記も混在。行数・ハッシュはmanifest.jsonに記録。
| CSV | 行数(ヘッダーを除く・重複を含む) |
|---|---|
| companies.csv | 8 |
| stores.csv | 24 |
| panelists.csv | 400 |
| survey.csv | 400 |
| iot_events.csv | 1,182 |
| purchases-july.csv | 924 |
| purchases-august.csv | 900 |
数千行でも、分析の難しさは十分にあります。同じ人の複数回の購買、買物に複数のカテゴリ、入退店の組み合わせ、同意・欠損・ウェイトなど、実務で判断が必要になる条件を入れています。行数を増やす代わりに、定義と解釈を深く扱います。
最初の準備
- ZIPを展開し、データ辞書と分析依頼を読む。
- 目的・対象者・観測期間・同意条件・完成条件を自分の言葉で整理する。
- ファイル分析とコード実行を利用できるChatGPTへZIPを添付する。展開できなければCSV7本と文書を渡す。
- Workローカルでは展開したJMAR-marketingを選択する。小規模演習のJMAR-lesson07とは別のフォルダです。
講義は90分の中で機能説明と分析→HTMLのデモを行い、全分析を各自で完成させる場合は講義外60〜90分を目安にします。行数は少なくても、コード生成・描画・検品には時間がかかるため、講師はリハーサルで所要時間を確認します。
13明細・買物・来店・生活者を区別して結合する
「1行が何を表すか」を粒度と呼びます。購買明細1行、買物1回、入退店イベント1件、生活者1人は別の単位です。最初に粒度とキーを確認し、分析に使う表を組み立てます。
| 注意点 | 誤りやすい処理 | 正しい処理と証拠 |
|---|---|---|
| 購買明細の重複 | 全行をそのまま合計 | line_idで完全一致だけ除外。原本・採用・除外件数を記録。 |
| 金額と数量 | spend_jpyに数量を掛ける | spend_jpyは明細全体の支出。数量を二重に掛けない。 |
| 買物と明細 | 明細数を買物回数とする | basket_id単位に合計。同じ買物の人・店舗・時刻も確認。 |
| 企業コードの不整合 | 不明コードの明細を消す | 店舗マスターの企業を正とし、補正件数を記録。 |
| IoTの時刻・退店欠落 | 欠損を滞在0分にする | 時刻をJSTへ変換。入店/退店1件ずつ、滞在0分超・120分以下などの条件で採否を決める。 |
| 同意と観測範囲 | 全員のIoTを利用する | IoT連結は同意者のみ。未同意者も購買パネルの集計には残す。 |
| 生活者数 | 企業別の購入者数を足す | 同じ人が複数企業で買うため、表示する単位で生活者IDを数え直す。 |
IoTと購買の連結には「時間の条件」が必要
同じ人・同じ店舗・入店から退店後30分までの買物を、その来店へ連結します。候補が複数なら直前の入店を選び、1つの買物を複数来店へ付けません。購買が連結しなかった有効来店も分母に残します。詳細な同時刻の扱いはデータ辞書にあります。
「その時間内に購買が観測された」ことと「来店が購買を生んだ」ことは違います。IoTがない生活者や店舗もあるため、未観測を「来店なし」と扱わないようにします。
- 明細合計とバスケット合計で支出が一致する。
- 参加者数・購入者数・買物回数・有効来店数が区別されている。
- 入退店の異常フラグと、除外された一意の来店数を分けている。
- 1バスケットが2つ以上の来店に複製されていない。
- 購買なしの対象者・有効来店も、必要な分母に残っている。
14購買傾向と行動を、複数の角度から分析する
① 企業別の構成比と、属性別の購入者率
各企業の支出構成比を7月と8月で比べます。単純合計とpanel_weightを掛けた加重集計の両方を示し、年齢・居住地域ごとの購入者率も調べます。購入者率の分母は買わなかった人を含む対象パネルです。
このウェイトは研修用に与えたものです。「観測パネル内の支出構成比」を全国市場シェアとは呼びません。属性別に結果が変わるか、参加者構成が結論にどう影響するかを説明します。
② 企業間の買い回りと、カテゴリの併買
8×8のヒートマップで、企業Aの購入者のうち、企業Bでも買った人の割合を可視化します。分母が違うのでA→BとB→Aは同じとは限らず、行合計も100%になりません。
同じバスケットで買われたカテゴリの組み合わせには、件数・support・liftを付けます。よく買われるカテゴリ同士は、偶然でも組み合わせが増えます。ペア件数だけで強い関係を断定しないことがポイントです。少数ペアやliftが1以下の場合は、そう書きます。
③ D30再購入:同じ30日を観測できた人だけで比較
初回購入日の翌日から30日後までに再購入した人の割合を求めます。基準日は8月31日なので、成熟した分母は初回購入日が8月1日以前の人です。同日複数の買物は再購入としません。
直近の購入者を「再購入しなかった人」に入れると、再購入率は低く見えます。初回月ごとに成熟人数と未成熟人数を出し、人数が小さい結果は解釈を限定します。
④ IoT:長く滞在した人は、購買も多いのか?
滞在分の分布、中央値、四分位を示し、15分未満/15分以上の来店で購買連結率を比べます。さらに事前アンケートの買物関心(1〜3/4〜5/欠損)で分けて比較し、全体差だけで終わらせません。
もともと買物への関心が高い人が長く滞在し、購買もしている可能性があります。これは観察データなので「長時間滞在させれば購入が増える」という因果効果は結論にできません。退店後の猶予を30分から0分に変え、連結ルールへの感度も確認します。
⑤ 構成比の変化は、どのくらい安定しているか?
架空チェーンAの加重支出構成比の8月−7月差を、生活者を引き直すブートストラップで調べます。全400人から復元抽出し、同じ人の明細はまとめて扱います。明細を1行ずつ独立に引き直す方法は使いません。
2,000回の差の分布から、2.5%点と97.5%点を95%区間として表示します。乱数seedと手順を保存し、区間の広さも含めて説明します。これはこの観測パネル内での安定性であり、全国市場の誤差や因果効果の区間ではありません。
⑥ 次の追加調査を提案する
結果から、購買構成が変わった属性、買い回りが多い組み合わせ、滞在と購買の関連などを挙げます。その上で、来店目的を聞く、観測されない店舗を補う、別の期間で確認するなど、どの不確実性を減らすために何を調べるかを提案します。
15ChatGPTに、分析からHTML完成まで任せる
データと定義を渡し、コード実行→集計→仮説の検証→HTML描画→検品→修正まで進めるよう依頼します。数千行を全部文章として貼り付ける必要はありません。AIにコードで全行を処理させ、計算した値からレポートを描画させます。
講師デモで注目する動き
- データを調べる:7CSVの粒度、重複、時刻、同意条件を確認する。
- 定義に沿って計算する:ウェイト・分母・観測期間を固定する。
- 別の角度から確かめる:属性別・関心度別・連結猶予別で解釈を見直す。
- 実際に描画する:集計値を使い、HTMLの図・表・フィルタを作る。
- 操作して直す:値の一致や表示の不備を確認し、コードから修正する。
途中で止まったら、「analysis.pyとvalidation.mdを読み、未完了の分析から再開し、最後に7ファイルの実在とHTML表示まで確認して」と伝えます。生成したファイルやコードを保存しておくと、環境が変わっても引き継ぎやすくなります。
利用中のChatGPTでコード実行やブラウザ操作が使えない場合は、対応するWork環境を使うか、その工程を人が確認します。実施できた検証と未検証を分けて報告することも完成条件です。
16調査結果を読める・動かせるHTMLに仕上げる
グラフが多いだけのページではなく、何が分かり、どの根拠があり、どこから先は分からないかを読めるレポートにします。単体HTMLにスタイル・JavaScript・必要なデータを同梱し、ローカルで開けるようにします。
| レポートの部分 | 完成条件 |
|---|---|
| 冒頭と調査設計 | 結論、期間、400人の観測パネル、架空データ、ウェイトの意味を明示。 |
| 6種類以上の図 | 企業別構成、属性別購入、買い回り、併買、D30、IoT行動、構成比差の区間から、根拠に合う図を作る。 |
| 探索フィルタ | 月・企業・カテゴリを変えるとKPI・図・表が同時更新。購入者を重複なく数え、空状態・リセットも動く。 |
| 固定の分析 | 買い回り・D30・IoT・ブートストラップは母集団を明示し、探索フィルタとは区別。 |
| 単体動作 | 外部CDN/API/fetchなし。ブラウザで開き、ネット接続なしでも機能する。 |
| 再現性 | 分析コード、集計CSV、検証記録があり、同じ入力から数値を再生成できる。 |
提出する7ファイル
output/ report.html 分析レポート analysis.py 再実行できる分析・生成コード company_summary.csv 企業別の構成・購入者の集計 basket_pairs.csv カテゴリの併買 cohort.csv 成熟したD30再購入 behavioral_summary.csv IoTの滞在・購買連結・感度 validation.md 品質監査・計算・表示の検証記録
人はreport.htmlを開き、7月/8月×架空チェーンA×食品などに切り替え、集計CSVと照合します。解除・データなし・印刷・狭い画面も確認します。コードで確認した項目と、実際にブラウザで操作した項目を区別してください。
採点は100点のチェックリストを使います。80点以上を目安にしますが、人数や支出の増殖、同意条件無視、分母の誤り、HTMLとの不一致があれば点数にかかわらず要修正です。
Officeへの追加課題:同じ検証済み集計からExcel分析ブックと、意思決定者向けのPowerPoint5枚を作らせます。プロジェクト内のテンプレートを使い、HTMLと主要な数値が一致するところまで確かめます。
第7回の宿題
第12〜16章の購買パネル・IoTデータで分析とHTMLレポートを完成させ、指定の7ファイルを提出してください。根拠のある観測結果を3点、追加調査したい問いを1点挙げます。全行処理・定義・解釈・表示・再現性で評価します。以下は基本操作コースです。
検索から検品までの進み方を記録する
第3章のプロンプトでPowerPointを1本作成。検索・生成・検品・修正のうち、AIが続けて実施した工程と、人が追加で指示した工程を記録してください。出典を一つ開いて照合します。
Excel集計とPowerPointを完成させる
配布データとテンプレートを使い、.xlsxと.pptxを作って手元に保存してください。第7章の期待値と照合し、両ファイルの数値が一致することを確認してください。
テンプレートを一箇所変えて再作成する
見出し色かフッターの一方を変更したテンプレートを別名で用意し、AIに使わせてください。新旧の資料を比較し、変更が反映されたページを記録します。
任せられる範囲を振り返る
利用環境(Chat/Workクラウド/Workローカル)、できた工程、できなかった工程、確認した方法を短くまとめてください。Geminiを使える方は同じプロンプトで比較する発展課題にも取り組めます。
提出するもの:①調査PowerPoint、②アンケートExcel・PowerPoint、③変更前後のテンプレートまたは比較画像、④使ったプロンプトと確認記録。提出方法・期限は研修事務局の案内に従ってください。実データ・個人情報を追加する必要はありません。
合格の目安:実ファイルを開ける/数値と分母が正しい/指定の体裁が反映される/実施した確認と未検証事項を説明できる。
出典・機能の確認
2026年9月8日に確認した公式情報です。利用可否はプラン・管理者設定・地域・OS・提供時期によって変わるため、実施直前に実演用アカウントでも確認してください。掲載プロンプトは本研修用に作成した演習例です。製品の出力品質やJMAR環境での動作を保証するものではありません。
- OpenAI:Use ChatGPT — ChatとWorkの用途の違い。
- OpenAI:Get started with ChatGPT Work — 制作タスク、ローカル/クラウドの選択。
- OpenAI:ChatGPT Work Overview — 実行環境とファイルへのアクセス。
- OpenAI:ChatGPT Work local security — ローカルファイル・アプリの権限、データ処理。
- Google:GeminiのDeep Research — 調査の進行とレポート。
- Google:Use Gemini Apps — .xlsxなどのファイル生成。
- Google:Create docs, apps and more with Canvas — 文書・スライドの作成と更新。
- Google:Generate presentations with Gemini in Google Slides — 編集可能なプレゼンテーションとスタイル参照。ページ記載の提供条件にも注意。